短歌雑記帳

アララギ作品評

 2014年8月号 選歌後記    三宅 奈緒子

清しくも勁く生きましし一生を思ふなりいま読み返す『金石淳彦歌集』
コミュニズムも神も遠しと淳彦は喀血激しき敗戦後の日日に
                    北村 良

 或る年代の人々には、「金石淳彦」なるその名自体が懐かしく思われるであろう。「清しくも勁く生きましし」とは彼の一生を簡潔に表現した言葉で、私なども本人をじかに知らないながら、彼の友人であられた扇畑氏を通してまた彼の作品を通してその消息を僅かに窺い得ただけであるが、その清しくも勁き生が今も強く印象に残っている。

亡き夫の嬉しげなりしとの夢はクロワッサンと紅茶の朝食
その背越す菜の花のなかに遊びたる幼き日々を娘は忘れずと
                    清野 八枝

 七首中五首は、娘に関わるもので、その夫が早く世を去った娘への思い、また娘の幼時への共感を詠っている。娘が幼時住んだのは長崎で、回想の場としてはいかにもふさわしく、作者自身のの地への想いもこめられている。



バックナンバー