短歌雑記帳

アララギ作品評

 2014年10月号 選歌後記    三宅 奈緒子

亡き妻を偲ぶよすがに里山にこだまをかへす郭公のこゑ
妻の忌のすぎし今宵の感傷にひとりの酒のやや深くなる
                    鈴木  功

 亡き妻を偲ぶ一連の最初に「郭公のこゑ」を置いたのが利いている。私も仙台に住んで いた頃、何かすがしくも物がなしい感じで郭公の声を聞いたものだった。心境の運びが自然で、読者も自然にひきこまれてゆく。
「ひとりの酒のやや深くなる」も抑えた表現ながら、中々に利いている。

病室の窓を透してほととぎす明けゆく空を啼きわたるこゑ
人生はかくけだるきか梅雨の夜にサティの曲をひとり聴くとき
                    前澤 宮内

 自在に海外の旅を楽しんでいる作者と思っていたが、今月は一転、病床詠がつらなり、驚かされた。しかしその病床詠にも、いかにもこの作者らしい個性が表われていて、平板なものに終わっていない。
 「人生はかくけだるきか」の詠嘆が下の句に調和し、またこの一連の雰囲気を鮮明に出し得ている。



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