星野清 歌集「アルルの光」より
このホームページの選者を長くお受けくださった星野清先生の歌集「アルルの光」から
<意識なく>
意識失せて二十日過ぎたる曾祖母の髪なでてをりわが四歳が
酸素マスク
喉
に当てて物のごとく並べるひとりとなりたり義母は
意識戻らぬ曾祖母を言ひ出づるをさな児よ赤きあきつが草原に飛ぶ
表情の動かぬ顔に看護師が意識なき義母の衣を替へゆく
意識なく生かされて七十七日かベッドに両の手結はへられたり
朝々のわが靴そろへ下されし手なりき脈の絶えだえとして
亡骸となりし曾祖母の枕辺に五歳がひとりまた覗きゐる
庭掃きを欠かすことなき義母なりき小さき箒に今朝はわが掃く
曾祖母の骨拾ひたるわが幼もどり来てひとり茶を欲したり
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